甘い恋じゃなかった。



それから数十分の時が流れ―――


「…何やってんだよお前」


目の前に突如現れた私を見て、桐原さんが唖然とした表情を見せた。


「え、えへ。来ちゃった♡」

「………」

「ちょ、ちょっとそんな睨みつけなくても!?一応お客ですからね、お客!」


客に向けるものとは到底思えない鋭い視線に思わずたじろく。


とりあえずまずは、注文だ。


「えっと…モンブラン一つといちごショート一つ、チョコケーキ一つにカボチャプリン三つ下さい」

「…食いすぎだろ…」


ドン引きしている桐原さん。


「いいからさっさと箱つめてくださいよ、ほら」

「偉そうに…」

「客ですから!」


憮然とそう言ってやると、チッと舌打ちをして渋々箱にケーキを詰め始めた。


「ていうか知りませんでしたよ、カボチャプリンが新しく出たなんて!」

「…秋限定だけどな」

「すっごくおいしそう…!」

「当たり前だろうが。俺が作ったんだから」


…くそう、ムカつく。

ムカつくけど、そんな彼にでさえときめいてしまう私は、もう結構、重症なのかもしれない。


「今回は素材に結構こだわってんだよ。洗双糖っていう種子島の…」


ボス、と。桐原さんの胸に飛び込んだ。



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