甘い恋じゃなかった。
しっとりと触れ合ったそれが離れる。
私は呆然としたままそれを受け入れ、そして何が起きているのかよく分かっていないうちに、終わっていた。
一方、唇を離した桐原さんは、まるでキスをした直後とは思えないような険しい顔をしている。
「…甘い」
不機嫌そうに呟いた彼は、ペロリと自身の唇を舐めた。
「お前ケーキ食った?」
「は、はぁ…さっきまでボヌールに…ていうかあの」
「へぇ、何のケーキ?」
「え、えと、ショコラフランボワーズとか…ていうかあの今」
「ふーん、うまかった?」
「そ、そりゃまぁ美味しかったですけどそれよりもあの」
今キスしましたよね!?という話題に早く持っていきたいのに、自己中男桐原さんはそんな私の様子になど全く興味がないようだ。
「…気にくわない」
「え、ちょっ!」
なぜかご機嫌ナナメの桐原さんは私の腕を引っ張ったまま、マンションの自動扉に続く階段をのぼり始める。
「あのっ…桐原さん!?」
「俺以外の奴が作ったケーキ褒めてんじゃねぇよ」
自動扉が開いて、桐原さんが我が物顔で「おい鍵」と私を振り向いた。