甘い恋じゃなかった。





「き、桐原さん、わ、私のことはいいですから!ラーメン…のびますよ?」



「…!」




は、と我に返ったように桐原さんが着席した。その顔は妙に気まずそうである。どうやら、初日の時もそうだったけど、彼はお菓子作りのことになると無意識のうちにエキサイトしてしまうらしい。



「………」



彼は無言でカップラーメンの蓋を開け、顔をしかめた後(やはり麺はのびていたようだ)渋々、といった感じでそれに箸を伸ばした。



ほ、とする。

これでいつも通り、楽しくお菓子作りができそうだ。




でも…


それは大きな間違いだった―――





「だからもっと慎重に!雑なんだよ!」



「はっはい!!」



「そう、丁寧に、そう――だぁーっちげーよ!生地の様子をもっと確認しろ!切れてねーだろ!」



「はい~っ!!」」





楽しいお菓子作りのはずが、私はなぜか、鬼監督にしごかれる野球部員のような気持ちでひたすらシュークリーム作りに没頭した。





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