甘い恋じゃなかった。




「私にも教えてよ。牛奥の好きな子って誰なの?」



改めて聞くと、牛奥は「へっ!?」と素っ頓狂な声をあげて、「そ、そそそそれは」となんだか盛大にどもり始めた。



「教えてあげれば~?」



相変わらずニヤニヤしている莉央に、牛奥が「嫌だよ!!」と吠える。




「何で?教えてよ!何で莉央が知ってて私だけ知らないわけ?」



なんかちょっとムカつく。莉央と牛奥とは男女関係なく三人で仲良しだと思ってたのに、私にだけ秘密にしていることがあるなんて。



不貞腐れてビールに手を伸ばすと、牛奥が「違う!」と弁明し始めた。



「勘違いするな!?俺は断じて早乙女にも教えた覚えはねーぞ!」



「で、だから好きな子って誰なの?」



その人懐っこさと可愛い系の容姿で、社内の年上女性からの人気が密かに高いことは知っている。


そんな牛奥の好きな子…単純に気になる。



「もしかして同じ会社の人?」



聞くと、「ちっ!!!ちっげーよ!!!」全力で否定された。



隣には爆笑している莉央。
何がそんなに面白いんだろう。




「そこまで否定されると逆に怪しいんだけど…」


「ちっ違う!断じて社内じゃねーし!社内の同期とかじゃねーからな、絶対違うからな!!」



別に誰も同期だなんて言ってないし…。




そんな感じで、牛奥の好きな子は結局分からずじまいのまま、金曜日の夜は更けていった。






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