すれ違い天使Lovers
VS八神玲司

――――遡ること半年前、伯父にあたるルタから父の死を告げられたその日、ミラは自分が予期していた最悪のケースが現実のものとなり呆然とした。その一方、その原因となり自分から父を奪った八神玲奈に復讐を果たすことが、自身に課せられた使命であり生きる道だと決断するに至る。
 そして現在、合格率の低い試験を突破し地上へと降り立ったミラは空を優雅に飛行する。玲奈の居場所は分からないものの、デビルバスターの家系とだけ知っていれば悪魔との戦闘を探知し向かえば、いつか必ず鉢合わせになると踏む。
(八神玲奈と息子の玲司。私から父を奪った奴等にやっと復讐が果たせる。考えるだけで血湧き肉踊る。早く見つけたい反面、この高揚感を楽しみたい自分が居るな……)
 夕日が映える東京の街を見下ろしながらミラは飛行を続ける。飛行する天使が珍しくないのか、人間と目線が合うもさして驚いたような表情を見せない。しばらく眺めていると、目先の公園で大型の悪魔が暴れている姿が見えた。同志も戦っているようだが、その力量から判断し助太刀が必要だと判断する。公園付近まで近づくと、光り輝くオーラをまとった二人の青年が現れミラは眼を見張る。
(あれは、八神玲司! ふっ、こんなに早くも見まえるとは、ほとほと運のないヤツと見受けられるな)
 嬉々としつつ向かおうとすると、上空から大型悪魔の部隊が現れる。種族から判断し下で戦っている仲間であることは容易に想像できる。
(ちっ、邪魔な奴らが現れたな。本戦の準備運動がてらゴミ掃除しとくか)
 ミラに全く気づいていない悪魔の背後に回ると、剣を突き出すように構え勢いをつけて突進する。五体いた大型悪魔はミラの奇襲攻撃により二体になり、反撃に出た一体も瞬殺された。残り一体は身の危険を感じたようで、剣を構えたまま公園に急速旋回し逃げて行く。
「逃げられるとでも思っているのか、雑魚が」
 剣の具現化を解くとすぐさま大型の戦斧を具現化し逃走する悪魔めがけ、回転しながら襲い掛かる。悪魔が着地するのを確認すると、そこに目がけて斧を振り下ろす。斧を喰らった悪魔は当然消滅し、ミラは悠然と具現化を解く。目の前にはちょうど宿敵である玲司が立っている。
(なんという巡り合わせか。眼前に憎き相手がいるとは。しかし、ここは少しマズイか。人間が多い上にかなり強力な魔力を持ったヤツも群衆に紛れている。一旦引くふりをして尾行するか。八神玲奈の居場所も同時に突き止められそうだからな)
 後ろ髪が引かれるもののミラは玲司の前から飛び去る。遥か上空から玲司の様子を伺っていると、一人の女性天使が上空より近づく。少し警戒しつつ構えていると相手の方から話し掛けてくる。
「凄まじい戦闘能力ですね。怒気のはらんでいる点は少々気になりますが」
「貴女は?」
「申し遅れました、私はプリメーラと申します。人間界に人間転生した天使です」
(人間転生。人間側の元上級天使か……)
「何かご用ですか?」
「人間界にいらして間もないようなので老婆心ながらにご忠告を。何があっても人間を攻撃したり殺めたりはなさらぬように。人間界のみならず天界からも刺客が放たれますゆえ」
「研修で一通りの説明は受けております。ご安心下さい」
「そうですか、それは失礼致しました。貴女のオーラがあまりにも激しい怒気を放っていたのでつい気になってしまいまして」
 プリメーラは穏やかな表情で語るも目つきは警戒を解いておらず、ミラもそれを理解して慎重に言葉を選ぶ。
「悪魔を討伐するのは天使の本懐。私も天使の本分に従い、全力で剣を振るっているだけです」
 笑顔で答えるミラを見てプリメーラも笑顔になる。
「とても良い心掛けですね。貴女なら良い天使となるでしょう。これからも精進なされますよう願っておりますよ」
「仰せのままに」
 会釈を交わすとプリメーラは去って行く。
(人間界での監視員だろうか。それとも単純に流れの天使か。いずれにせよ雰囲気からして只者ではなさそうだ。プリメーラか、要注意と言ったところだな)
 プリメーラの姿が消えるのを確認するとミラは再び玲司を探す。
(プリメーラのせいで見失ったか。しかし、まだ近くいるはず。待っていろよ、八神玲司!)
 夕闇が包み込み始めてた白金台駅を見下ろしながら飛行していると、人気のない一本道を一人歩く玲司を発見する。
(見つけた!)
 先回りしアスファルトに降り立つと、玲司の方も立ち止まり気が付く。睨み付けていると玲司の方から口を開く。
「天使様が俺に何か用か? それともさっき助けたから礼を寄越せとか言わねえよな?」
(助ける? 何を言ってるんだコイツ? まあ、どうでもいいが人気の無い今のうちにさっさと片付けてしわねばな)
 睨みつけていると玲司はさらに語る。
「問答無用って感じだな。助けておいて殺す気満々って面構えだし。ま、俺は一向に構わないがな」
 刀が抜かれる様を見て、ミラも剣を具現化する。
(相手もやる気まんまんか。面白い、その意気がどこまで持つか試してやる!)
 低空飛行からの斬り上げを繰り出すと、玲司はそれを難なく受け止める。
(ほう、この剣速についてくるか。ただのザコでもなさそうだ)
 力で剣を押し込んでいると、いなして横へ逃げられる。再度斬り込もうとした瞬間、玲司が口を開く。
「名前を聞かせろ!」
(名前だと? この期に及んで時間稼ぎか?)
「この戦いがどういう結果になろうと恨みやしない。ただ、命懸けで戦った相手の名前くらいは知っておきたい。騎士道にも武士道にも名乗りはあってしかるべきじゃないか?」
(ふん、いっちょまえなセリフを吐くじゃないか。まあいい、コイツの力量ならば私が優勢なのは変わりない)
「ミラだ」
「俺は八神玲司だ。ちなみに、俺を狙う理由はなんだ?」
(私の事を知らないのだろうな……)
「お前が八神玲奈の息子だからだ」
「母さん? なんで母さんの名前がここで出るんだ。一体お前に何をしたって言うんだ?」
(私とは正反対で、何も知らずにのうのうと生きてきたのが分かる発言だな。それ自体が罪だ)
「私の大事な者を奪った張本人だ。だから今度は八神玲奈の大事な者、つまり息子のお前の命を私が頂く」
「なるほど、分かりやすい弔い合戦だな。ちなみに、俺を殺したとして、その後、母さんも殺すのか?」
「当然」
「そうか。じゃあ、俺はここでお前を止める必要がある訳だ。なかなかキツイ仕事だな」
(べらべらと煩いやつだ。援軍や天使が来る前にさっさとやらねば!)
「そろそろ時間稼ぎは済んだか? 私から行くぞ?」
「時間稼ぎがバレバレってわけか……」
「死ね」
 先の突進よりもさらに速い加速で突進すると、刀をはじき玲司は後方へとダウンする。
(あっけないな! これで終わりだ!)
 剣を振り下ろそうとした瞬間、脇腹に衝撃が走りブロック塀の奥へと吹っ飛ばされ、民家の居間内で止まる。
不意を付かれたこともあり、ミラは一瞬意識が飛びそうになる。
(くそ、やはり時間稼ぎで援軍待ちだったか。ダメージの雰囲気からだと恐らく悪魔の攻撃。やっかいな展開になったな……)
 居間で起き上がりながら周りを見渡すと、男子高校生と思われる青年が口を開け呆然として見ている。
「ん、すまんな人間。文句なら外にいる人間にでも言ってくれ」
 捨てゼリフを放ち庭に出ると塀を飛び越えつつ巨斧を具現化する。
(悪魔もろともひねり潰してくれる!)
 玲司と隣にいる女子高生目がけ振り下ろそうとした瞬間、女子高生から放たれる黒いドーム状のオーラを見てミラは危機を悟る。
(マズイ! 魔域の召喚か!)
 気が付くと同時くらいに斧が反属性効果で消滅し、ミラの身体にも魔域が襲う。
(くっ、このままでは私まで消滅しかねない! 盾の具現化でダメージ軽減しつつ耐えられるかどうかだな。八神玲司、このままでは済まさない!)
 上空に吹っ飛ばされ意識が遠のくのを感じながらも、玲司に対する怨念をしっかり刻み込んでいた。
< 18 / 35 >

この作品をシェア

pagetop