すれ違い天使Lovers
VS天使ミラPart2

 翌日、学校をサボり人気のない公園のベンチで一人座っていると上空からミラが降りて来る。昨日のダメージが残っているようで、衣服から肌までボロボロになっていた。
 玲司の前まで歩み寄るとミラは剣を手の平から具現化する。玲司もベンチから立ち上がると蛍丸を抜刀し構え静かに口を開く。
「一つ、聞きたい。レトは君にとってどういう存在だ」
 レトという単語を聞いてミラ少し驚いた後、悲しい顔をする。玲司は油断せず構えたまま返答を待つ。互いに視線を逸らさず一定の距離を保つものの、緊張感で空間はピリピリしている。ぎりぎりの間合いを保ったまま、長い沈黙が続きやっとミラが話し始めた。
「父だ。八神玲奈に取られたがな」
(やはり親族。っていうか……)
「つまりあんたは俺の姉さん、ってことになるのか?」
 玲司のセリフがお気に召さなかったのか、ミラの目つきが一転鋭くなる。
「汚らわしいことを言うな! お前らのせいで父は死んだ! 一度ならず二度もだ! 私は絶対貴様ら親子を許さん! 貴様のような下等生物と血が繋がっていると思うだけで虫ずが走る。今すぐ抹殺してやる!」
 怒りに任せ突進し斬りかかるも玲司はそれを余裕で受け止める。
(遅い!? 昨日のダメージで力を出し切れてないのか? これなら留真の作戦がなくても一人でなんとかなる!)
 一瞬安心したところ上空に出来る巨大な影を見て危機を覚える。巨大戦斧が振り下ろされ、ベンチから背後の雑木林まで叩き潰され土埃が舞う。
 昨夜程のスピードもなく難無くかわした玲司は、柄の部分で固まるミラに飛び掛かる。玲司の刀が襲い掛かる前に斧の具現化が消滅し、再びミラの手元に剣が具現化されガードされる。
(予想通り!)
 ガードを見越し左足に集中していた光固で、ミラの脇腹を蹴り飛ばす。体重が軽いぶん効果はてきめんで、ミラは十メーター以上吹っ飛ばされる。
(これで決まったとは思えないが……)
 吹っ飛ばした先を見ていると、低空飛行しながらミラが再度突進して来る姿が見える。
(こんなにはっきり見えるってことは、やっぱり相当遅いな。これならアレを使える!)
 軌道を読みつつ刀の柄と膝に光集束すると、突進に合わせ柄と膝で叩き挟む形で迎撃する。
「橘流・光牙(こうが)」
 背中と腹を同時にカウンター迎撃され、ミラは地面に叩き付けられ血へどを吐く。玲司は剣先をミラの背中に当てる。
「勝負はついた。その怪我じゃ俺には勝てない。もう諦めろ」
「ふざけるな! 私は必ず貴様を殺す。やられたくなければ今すぐ私を殺せ」
(くそ、なんて扱い難い女なんだ。つーか俺、絶対女運ねえわ……)
 蛍丸を納刀すると玲司は距離を取る。その姿を見てミラは素早く立ち上がり再び剣を構える。
「何のつもりだ? 何故トドメをささない」
「俺はデビルバスターだ。天使は殺さん。それだけだ」
「あまいな。これは死闘だ。殺し合いにルールも信条も無い」
「そうか? じゃあ、一般人の多かった池袋公園で戦わなかったこと、夜道でわざわざ正面から待っていたり名乗ったりすることは、その死闘とやらの精神に合致してるのか? 本当に憎いと思う相手なら、とっくに闇討ちしてる。つまり本当のアンタは優しいヤツなんだよ」
 玲司の言葉にミラの顔はみるみる赤くなる。
「黙れ下等生物が! 私を知ったふうに語るな! 公園では死闘から邪魔者を廃除したかったにすぎん。誰にも邪魔されず貴様を心置きなく殺すためだ。私は今までお前たちに復讐するためだけに生きて来た。私の存在理由はそれだけなんだ。いまらさら情けをかけられても、大好きな父は返ってこない。お前らが父を奪ったんだ! 今すぐ冥土に送って……」
 剣を構えるミラの背中側から腹にかけて、長細い槍が貫通しミラは前のめりに倒れ込む。
(まさか……)
 ミラの背後からは笑顔の美咲が歩いてやってくる。
「ごめんなさい。お待たせしました。橘君から作戦を聞いて急いで来たんですけど、大丈夫でしたか?」
「ああ、大丈夫」
 地面にはいつくばり苦しそうに血を吐くミラを見て心が痛む。
「あら? このゴキブリ、まだ生きてるみたい。トドメ差しますね」
 強引に槍を引き抜き再び刺そうとした瞬間、玲司は蛍丸で槍を弾き落とし美咲の前に立ち塞がる。
「八神君?」
「やめてくれ。コイツはもう十分苦しんで生きて来てたんだ。俺と同じように、俺と同じ大事な人を想ってな」
「意味分からないです。私の邪魔をしないで下さい。ゴキブリ掃除は私の生き甲斐なんです」
「じゃあ、俺も殺すのか? 俺はそのゴキブリの息子だぞ」
「八神君はエンジェルハーフですしカッコイイからいいんです。でも、天使どもは私の父を殺したゴキブリ軍団。一匹残らず廃除するのみです。さあ、八神君そこをどいて下さい」
「どかない。どうしてもと言うなら俺を殺してからにしろ」
 本気で戦う覚悟が目つきからも伝わり、美咲はたじろぎながら後退する。
「わ、私の生き方はこれからも変わらない。天使はこの世から全て抹殺する。父の仇なのだから」
 父の仇と聞いて玲司は美咲とミラが被って見える。
(先の大戦で天使に父を殺された葛城さんに、悪魔に父を殺されたミラ。折り合う訳がない。そして俺は仇である天使と人間のハーフで、ミラから父を奪った女の息子。抱えるには重過ぎるな……)
「葛城さん、告白の件も含めて明日学校で話したい。とにかく今日は黙って引いて欲しい。頼む」
 頭を下げる玲司を見て美咲は背を向ける。
「明日、学校でお待ちしてます。それではまた」
 不機嫌そうな顔をしつつ美咲は公園を後にする。地面に倒れ意識を失っているミラを担ぐと玲司は自宅へと足を向けた。

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