何度でもあなたをつかまえる
雅人とはずっと一緒にいたけれど、同じ学校に通ったことはない。

アンサンブルもしてきたし、同じ舞台に立ったことは何度もあるが……同じオケに入ったことはない。

個人プレイが持ち味の雅人と、一般的にはオケで使わない楽器を専門としているかほりなので仕方ないが……オフィシャルな関わりができるのは初めてだ。



浮かれたかほりは、お昼時にもかかわらず、雅人の家を訪ねた。

鍵を使う前に、インターホンを鳴らしてみた……ら……

『かほり!上がって!』

と、スピーカーから弾んだ雅人の声が聞こえてきた。

ガチャン、ガチャン……と、ロックが解除されてる音もする。

……家の中から解除できるのね……。

新しいセキュリティシステムに全く知識のないかほりは、おそるおそるドアを開けた。

1つめのドアには鍵穴が2つあり、どちらも中から解除できた。

そしてもう1つのドアにも鍵が1つ。

「かほり!」

かほりが外側のドアを閉めると同時ぐらいに、2つめのドアがバーンと開いて雅人が飛び出してきた。


「あ……ごきげんよう。」

うれしくて、溶けちゃいそうな頬を意識して上げて、かほりはそう挨拶した。

が、有無を言わさず雅人の腕に抱き寄せられ……何も考えられなくなってしまった……。

「来てくれたんだね!うれしいよ!……夕べ、あれから掃除したんだ。部屋中どころか、天井までモップ掛けたんだよ。……どう?アレルギー……大丈夫そう?」

雅人はそう言って、かほりのうなじに、鎖骨に……指に……目についたところ全てに口付ける勢いで、唇を這わせた。

くすぐったさに、かほりの吐息が甘く震えた。


「……ありがとう。うれしい……。私も、何だか興奮して眠れなくて……」

すると雅人はおどけたような表情で、かほりの瞳を覗き込んだ。

「2人とも睡眠不足?……ホントだ!白目が濁ってる!……ちょっと、お昼寝しよっか?」


かほりに異存があるわけもなく……2人は、昼日中から真新しいシーツの掛けられたベッドで抱き合った。



雅人とかほりは、結婚と離婚を経て……再び、愛だけを貪り合う恋人関係に戻った。




花は紅
柳は緑、
真面目(しんめんもく)……。



天地自然のあるがままに。





第6章 了



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by蘇東坡
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