溶ける部屋
☆☆☆

突き当りの部屋は他の部屋と変わりないのに、話を聞いたせいでその前に立つだけで嫌な気分になった。


トシがこの部屋に入っただけで異変を起こしたのだとすれば、この部屋は一体なんなんだろうか。


得体の知れない不安が胸の中に渦巻いている。


健が一番前に立ち、「開けるぞ」と、合図を送る。


あたしはゴクリと唾を飲み込んでドアが開くのを見ていた。


ドアの向こうは相変わらず埃っぽくて、中はガランとしている。


しかし……その中に、真っ黒な塊がある事に気が付いた。


塊は床にベッタリとくっついていて、よく見ると人のような形をしているのだ。


「なに、あれ……」


郁美が呟く。


その時だった。


塊の頭の部分の見られるところが動き、こちらを見上げて来たのだ。


顔の半分が溶けているが、それは間違いなくトシの顔だった。


崩れ落ちた顔にあたしと郁美の悲鳴が上がる。


健と弘明も後ずさりをして部屋の外まで逃げて来た。


「な……なんだあれ!」


健が混乱した声を上げる。


郁美が悲鳴を上げ続け、その声に伶香が慌てて駆けつけた。


そしてドアの中を見て息を飲む。


みんな青ざめた顔をしていた。
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