僕らの空は群青色
深空があまりに怒るので、渡はどんなに夜遅くとも、自宅に帰るようになった。
渡が家族四人で食卓を囲むのを嫌がるので、時に深空は食事の時間をずらして渡と食べた。

しかし、渡は相変わらず深空が嫌いで、他の生活態度や父母との溝は一向に改善されることはなかった。



「一度、深空と遊園地に行ったことがある。深空はコースターが好きで、絶叫系のマシンばかり乗ってた。夏で暑くて人がいっぱい居て、俺は早く帰りたかった。でも、あいつ全然言うことを聞いてくれなくて。結局閉園時間ぎりぎりまで遊んだ。『また来ようね』とか言うから、俺は『こんなうるさくて暑苦しいところ金輪際嫌だ』って言ってやったよ。そしたらあいつ、『じゃあ、次は冬に来よう』とか言うんだ。俺は本当に話が通じねえ女だな、と思ってもう何にも言わなかった」



これは、僕の推測だけれど、やはり渡は深空に恋をしていたのだと思う。

血のつながらない姉に、初めての恋をしていた。


深空には実の兄がいた。
父の前妻についていったので滅多に会うことはないが、深空より五つ上で、名前を啓治といった。渡は中学一年生の冬、初めて啓治に会ったそうだ。

啓治は背が高く、父を奪った女の息子にも優しかった。
渡は啓治が大好きで、本物の兄のように慕った。義理の姉の深空よりも兄弟になりたいと思った。啓治という大人の男に、失われた父の愛を重ねていたのかもしれない。

啓治と深空と三人でいると、不思議と関係はうまくいった。どんなにひねくれていた渡も中学生の男子に戻った。
普段は、冷たく当たってしまう深空にも優しくなれた。



「あの頃、啓治は俺の憧れだったんだ」



渡は自嘲気味に語る。


「頭のいい大学に通っててさ。でも固くないんだ。冗談ばっかり言うヤツでさ。深空と笑い方が似てるんだ。俺と啓治で深空をからかって、深空がそれにむきになって。あの頃は何をしてても楽しかった。俺がそれを壊してしまうまでは」
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