僕らの空は群青色
「俺に話しかけるのは、家族では深空だけだった」

「お義姉さんだね」

「姉だと思って接したことはなかったけどな」



渡と深空。出会った時、二人はもう十分物心がついていたので、いきなり姉弟になれといわれてもなかなか難しかったはずだ。
しかし、深空は実際の姉弟以上に渡に優しく接してくれた。
愛情深く、大人で利発な深空。彼女は渡の姉の役目を率先して務めるようになった。



「あいつはうぜえんだ。朝は途中まで一緒に登校するし、授業中だって放課後だって何かにつけて携帯メールをよこす。どうでもいい内容でさ。夜は俺の部屋に遊びにきて、漫画雑誌を読んでいくんだ。俺が遊び歩いていれば、怒って電話をしてくるしさ」



深空との思い出を語る渡は、懐かしそうで、切なそうで、苦しそうに見えた。
思い出は、今や渡の胸の中にしかない。



「あんまりうるさいから帰ってみれば、玄関で俺の漫画読みながら待ってんだ。『何やってんの?』って聞くと『お帰り』って笑うんだ。『俺の漫画』って言うと、『面白いね』って答えになってないこと言うんだ。馬鹿だろ、あいつ」



当時の渡はそんな深空が嫌いだったという。

義姉はなんだってできた。勉強もクラブ活動の吹奏楽も。父に愛されることも、義母に愛されることも。
しかもそれが、彼女の自然な努力で成り立っていることが渡には腹立たしかった。
自分には逆立ちしたってできない器用な立ち居振る舞い。

渡はどんなに深空に親愛を示されても、同じ感情を返さなかった。

一方、深空は渡にどれほど煙たがられようが意に介さない。いつだって変わらず、姉らしく、友人らしく接した。
それが当然だともいうような接し方に、折れて妥協したのは渡だったようだ。
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