ぬくもり
1人になった事で、私は少し落ち着きを取り戻す。


少ししてから車に戻ってきた岡崎さんは、私にあったかいココアを渡してくれた。



「つらい事があった時は甘いものがいいそうですよ。

テレビで言ってました。」



私と岡崎さんは黙ってココアを飲む。

ココアの甘さが口いっぱいに広がった。


「少し落ち着きましたか?」



私は黙って頷いた。


「どんな理由だろうと『死ぬ』なんて絶対駄目だ!」



今までの優しい顔ではなく、少し怒ったような厳しい表情の岡崎さん。



「私は妻を亡くしました。

彼女は病気と闘いながら、少しでも長く生きたいと、凌と翔の成長を見届けたいと、頑張っていました…

彼女は…かの…彼女は生きたかったんです。」



ぽつり、ぽつりと話しながら、今度は岡崎さんが涙をこぼす。



「死ねば良かったなんて、そんな事言わないで下さい。

私は、確かにあなたのつらさはわからない。

でも、凌や翔は、あなたの事が大好きなんです。

お母さんみたいだ…って凌が言うんです。

そんな…そんなあなたがっ…そんな悲しい事言わないで下さい。」



車内に無言の時間が流れる。


激しい雨が車をうちつける音だけが聞こえていた。



「うちの家族の勝手な思いですが、凌や翔は本当にあなたの事が大好きなんです。

子供達の大好きな人は私にとっても大切な人なんです。

だから、もう2度と死ねば良かったなんて言わないでください!

私達家族は、あなたに会えて本当に良かったと思っているんです。」



今まで大切だなんて言って泣いてくれる人は、私にはいなかった。



岡崎さんのあったかい力強い言葉が乾ききっていた私の心に潤いを与えてくれた。



「ありっ…ありがとうござ…います…」

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