ぬくもり
長引かせれば、長引かせるだけ彼女を悲しませる事になる。

まぁ、そんな事は早いか遅いかの違いでわかっていた事だけど…。



早く話さなきゃならないのに、延ばし延ばしにしていた。


いつまでも、このままでいる訳にもいかない。


覚悟を決め、美沙には仕事で遅くなると連絡を入れた。


幸代との待ち合わせの場所へ向かう。


幸代は、もう待ち合わせの場所に来ていた。



「ごめん、待たせた?」



彼女は俺の顔を見るなり満面の笑みを浮かべる。



「あたしも今ついたとこ。」



彼女の無邪気な笑顔が、これから別れをきりださなきゃならない俺には痛い。



俺はさりげなく彼女から視線をそらす。


「そっか。
今日は何食べたい?」



「んーとねぇ、イタリアンとかは?」



「よし!
そうしよう。」



幸代が自分の手を、俺の手に絡ませ手を繋ぐ。



今日でもう、彼女と手を繋ぐ事もなくなるんだ。


彼女に触れる事も…


一緒に笑いあう事もなくなるんだ。



このまま黙って、この関係を続けていこうか…無理だよなぁ。



一瞬浮かんだずるい考えを振り払う。




子供ができた事を会社に隠しておく事なんて普通に無理だし、幸代と付き合ってるのに、妻に子供ができるなんて、普段からつらい思いを我慢してくれてる幸代を、余計に悲しませる事になる。



会社にはギリギリまで子供ができたとゆう話を伏せておけば、少しは彼女のショックを和らげる事ができるだろうか?



店に着くまでの間、どうしたら幸代を傷つけずにすむか、そんな事ばかり考えていた。

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