ぬくもり
その日は遅くなったので、実家に泊まる事になった。



絶対に嫌だと拒む私に、『もう父親はいない』と沙耶は言った。



母は何年も前に義父と離婚していたらしい。



司は気をきかせたのか、夕食を食べた後すぐに、優を連れて部屋へ行った。



「お姉ちゃん、ごめん…」


司がいなくなってすぐ、沙耶がぼそっと言った。



「お父さんや、お母さんの事止めたかった。

でも、怖くて何も言えなくて…」



私はちょっと泣きそうになり横を向く。

「もう、いいから。」


沙耶もきっとつらかったんだね。


両親のそんな姿を、見てて苦しんだんだね。



「でもね、お母さんの事はわかってあげて。

お姉ちゃんは、いつも部屋にいたから知らないだろうけど…

美沙を何であんたが殴るのって…

お母さんよく、お父さんと喧嘩してたの。

お母さんなりに、お姉ちゃんの事を守ろうとしてたんじゃないかって…」



初耳だった。


母が私を義父から守ろうとした事があったなんて…


「でも、自分も殴ってたじゃない。」


「そうだけど…」


沙耶が少しの間黙り込む。


「お母さんのした事は間違ってるけど…
お母さん、つらかったって、自分を捨てた人とそっくりなお姉ちゃん見てるのがつらかったって言ってた。」



「もう、いいよ。
お母さんの気持ち少しはわかるような気するし…」



少しだけ、母の気持ちを思いやれるようになった私がいた。
< 165 / 202 >

この作品をシェア

pagetop