ぬくもり
「お節介だとは自分でも思うんですが…
気を悪くされたら本当にすいません。」



岡崎さんが、おずおずと口を開く。


話す前から謝られても、俺にはさっぱり訳が分からない。



「離婚…されるんですか?」



岡崎さんが、重たい口を開き遠慮がちに尋ねられる。


「美沙が言ってましたかぁ。」



俺は照れ笑いを作りながらも、人に話す程の、美沙の決心の固さにショックを受けていた。



「家族ぐるみで奥さんのお世話になってしまってるもんですから、どうにも気になっちゃいまして…」



岡崎さんも苦笑いを浮かべ、頭を掻く。


「実は…
本当にお恥ずかしい話なんですけど、美沙以外の女と…。

もう何年も前なんですけどね。

優ができたって聞いた時に別れたんですが、その頃美沙が気付いてしまったんですよ。」



俺の乾いた笑いがむなしく宙を舞う。



「井上さんは、それでいいんですか?」


岡崎さんの真剣な眼差しに、照れ笑いなんて浮かべて話を濁そうとした自分が恥ずかしくなる。



「まぁ、しょうがないかなと思ってます。」


岡崎さんの視線を避けるように、俺は伏し目がちに言った。


「しょうがないで終わらせてしまうんですか?」


「え?」


岡崎さんのいつもとは違う厳しい口調に、思わず聞き返してしまう。



「奥さんが、ずっと苦しんでたのは知ってるんですよね?」



「ちょっと待って下さい。
美沙は、どこまで岡崎さんに話してるんですか?」



俺の問いかけに岡崎さんは黙りこむ。



「すいません。
多分…大まかにはだいたい聞いてるかと思います。」



普通なら腹を立てるところかもしれない。

自分の妻が、知らないうちに家庭の話を別の男に相談しているんだから。


でも、腹が立つどころか、それを聞いてホッとしていた。



美沙はきっと、岡崎さんの子供に救われのと同様に、岡崎さんにも救ってもらったんじゃないかと思った。




そして、また俺も、自分の懺悔を誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。
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