あの日の忘れ物
「家の前で何してるのよ、あんた!」
「な……夏樹(なつき)?!」
朋は驚いて口をポカンとあけた。
私はハッとした。だって今ここで、十四歳のままの姿の私は、誰がどう見てもおかしい。
「あ…………! これは、えーと………………」
説明に困っていると、玄関からなんと二十六歳の私が出てきてしまった。
「――――じゃあお母さん、行ってきます」
玄関の中にいるであろう母親に軽く挨拶を交わす。どうやら何処かへ出掛けるらしい。
この状況で『夏樹』が出てきたら、ますます話がややこしくなる。そう思っていると、朋は私の手を掴んで、『夏樹』とは逆の方向へ走り出した。
「ちょ! ちょっと! 朋?!」
「いいから! 走れ!」
何なのよこれは!
私は朋に手を引かれながら、全力で走るしかなかった。
家から一番近くの公園まで、たっぷり十分は走った。
ハアハアと息を切らせながら、朋は噴水の前にある白いベンチに腰を下ろす。
「一体、なんなのよ」