夢で会いたい



仕事を終えた私を、トモ君は店の前で待っていた。

「芽実ちゃん、お疲れさま。送っていくから帰ろう」


もう何のためらいもなく、私は軽トラの助手席に乗り込む。

結果をすでに知っているだけに、その話題を振ることは難しかった。
それをわかっていて、トモ君は自分から口にした。

「受賞、逃しちゃった。まあ、最初からわかってたことだけどね」

「でも、万にひとつない程度には期待してたでしょう?」

「期待はしてないよ。うっかり期待なんかしたら後が怖いから。慎重に希望の芽は摘むように心がけてる」

「そんなんで人生楽しいの?」

「人生を楽しもうなんて最近まで思って来なかったから」

人当たりがよくて、いつもニコニコしてて、私がどんなにキツく当たってもへらへら平気そうにしているのに、あの暗い目で本を書いている人だ。
本の中身はトモ君のごく一部でしかなくても、逆に言えば確かに彼の一部ではあるのだ。

「最近は楽しかったみたいな言い方だね」

「もちろん芽実ちゃんが来てくれたからね。毎日芽実ちゃんのことを考えるのはとても楽しかったよ」


寂れた街並みが窓の外を流れていく。
閉店してしまった店、コンビニの跡、広い空き地。
誰だって活気がある方がいいに決まっている。

それでも最近では気にならなくなっていた。
よりいいもの、より素晴らしいことを追い求める気持ちは楽しいし、大切だけど、それだってどこかでは決断しなければならない。
至上最高なんて存在しないのだから。

つまりは、どこにいたって、どれだけ選択肢があろうがなかろうが、自分で満足する以外に幸せはない。

ここにきて、私は「もっと、もっと」という終わりのない欲から、少しだけ解放されていた。
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