夢で会いたい
タイミングをはかっていたように、家の前に着いた。
返す言葉も思いつかなくて、そのまま車を降りる。

残されたトモ君は、いつものようにニコっと笑った。


泣いている、と思った。
今彼は、全身全霊で泣いている。
この人の笑顔は全く信用できない。

「この狭い町だからもう会わないなんて無理だけど、約束通り付きまとうのは止める。今までごめんね。ありがとう」

そう言い捨てて、私の反応を待つこともなく軽トラは走り去って行った。


なんだそれ?
身勝手すぎるでしょ?
しかも弱すぎるでしょ?
そんな軟弱な相手、こっちから願い下げなんだよ!
いやいや、そもそも最初からナイから!
なんで私が振られたみたいになってるの!
バランのくせに!

胃の奥がギュウッとなって奥歯を噛み締めた。

やっぱり、あいつの「好き」は私に向かっていなかった。
ただ口からこぼれていただけだったんだ。

もし私が結婚するって言っても、同じ音色で「芽実ちゃん、おめでとう」と笑って言うのだろう。
心からの祝福を。
目だけ少しさみしそうにして。



これは怒りだ。
怒りのせいで苦しいんだ。

決壊しそうな何かを、必死に怒ることで食い止めていた。




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