悪魔に恋わずらい
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憂鬱な気分で午後の業務をやり過ごし、待ちに待った退社時間がやってくると、一目散にタイムカードを切る。
累くんに見つかってはまずい。
彼の言わずと知れた特技その1は待ち伏せである。
「石崎さん」
あとちょっとで外に出られると思って油断していた。
名前を呼ばれビクンと肩を揺らすと、恐る恐る振り返れば累くんが満面の笑みで手を振っていた。
「累……く……」
み、見つかった!!それもあっさり!!
しばらく会わない内に彼の探知能力はよりその精度を増していたようである。
「会いたかった……」
累くんはそう言うと何のためらいもなく騎士のように廊下に膝をついて、私の手の甲にキスを贈った。
「や、やめて……!!誰かに見られたらどうするの!?」
「僕たちの関係を公にすれば良いだけさ」
「僕たちの関係もなにも!!私達はただの元同級生でしょう!?」
「あれ?そうだっけ?」
累くんはとぼけたようにわざと首を傾げた。
アメリカに留学までしているくせにこれくらいのことを覚えていないなら本格的に医者に行った方がいい。