強引上司にさらわれました

「ありがとうございます」


お礼を言うと、「俺も手伝うよ」とワイシャツを袖まくりした。


「それじゃ早速ですけど、お鍋を用意してもらえますか?」

「鍋?」

「はい、そんなに大きくなくて大丈夫です。ふたり分ですから」


課長は、「鍋、鍋、鍋……」とブツブツ言いながらキッチンの棚の扉を片っ端から開けていく。
自分の部屋なのに、どこになにが入っているのかわからないなんて、なんともおかしい。

手当たり次第に出されたキッチン用具を前に、課長は「ん?」と首を傾げていた。
仕事では手際がいい課長の意外な一面だった。

そうしてなんとか鍋も見つかり、いい具合にキーマカレーも完成に近づいてきた。

小皿に少しだけのせ、課長に差し出す。
味見をお願いするのだ。


「どうですか?」


手料理を初めて食べてもらうときは、いつも緊張だ。

すぐそばで課長が味見するのをじっと観察していると、課長はそっと顔をそむけた。
見つめすぎてしまったらしい。

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