強引上司にさらわれました
「いい返事だ」
課長はクスクスと笑った。
そんな笑顔もまた、私の心をくすぐる。
達也に振られたばかりだというのに、すぐに別の男の人にドキドキするなんて、私はそんなに簡単なのか。
そこで、あることをふと思った。
そもそも、達也に対してこんなにドキドキしたことってあった……?
友達から始まった付き合いだったせいか空気のような存在で、心がときめくというのとはちょっと違っていたように感じる。
一緒にいれば楽しかった。
でもそれも友達のときと、精神的にはそれほど変わらない関係。
変わったことといえば、体のつながりが出来たことくらい。
笑顔を見てドキドキしたり、名前を呼ばれただけで動揺するようなことは記憶になかった。
「課長……」
呼びかけると、課長は優しい眼差しを私に向けてくれた。
そこでまたトクンと弾んだ鼓動を押さえ込み、「……さ、冷めちゃうから食べましょう!」と課長から皿を受け取った。