強引上司にさらわれました

◇◇◇

「聞いてくださいよ、麻宮さん」


浮かれた様子で野沢くんが話し始めたのは、ランチタイムのピークを過ぎた社員食堂だった。
先週末行なわれた二次面接の結果の案内に追われ、少し遅い時間のお昼となったためだ。
サバの味噌煮定食を選んだ私と、唐揚げ定食を選んだ野沢くんは、カウンターの席に並んで座った。

課長と応接室で話してから、早いもので二週間が過ぎていた。
結局、いまだにホテルを借り住まいとしている私。
荷物も、課長の部屋に置き去りのままだった。

課長とはあれから、仕事上の割り切ったやり取り以外で関わることはなくなった。
笑い合うこともなければ、個人的にふたりで話すこともない。
課長の部屋に転がり込む以前より、ずっと距離が遠くなったように感じる。

私自身が望んだことなのに、この胸のモヤモヤなんなのだ。


「今夜ね、翔子とふたりで結婚指輪を見に行くんです」


それでウキウキというわけか。
それにしても、まだ指輪を買っていなかったのか。
入籍はとっくにしていたはず。

喜色満面という顔で朝から報告してくれたことを思い返す。

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