強引上司にさらわれました
「そうじゃない」
「私がどれだけ傷ついたか。どれほどひどい目に遭ったか」
違う。
本当はそうじゃない。
達也を奪われたことを責めたいんじゃない。
課長への想いの行き場がないからなのだ。
好きにさせておいて、それが罠だったことが悲しいのだ。
課長への想いを弄ばれたことが許せないのだ。
それを達也に置き換えることでしか伝えられない。
私の気持ちを課長には気づいてほしくないから。
「だからもう、私のことは放っておいてください」
「……それが麻宮の望むことか?」
課長が、沈んだような目で私を見つめる。
自分から『放っておいて』と言った手前、ノーとは言えない。
「……はい」
私が返事をすると、課長は私の手首を解放した。
「わかった」
課長はまつ毛を伏せると、小さく息を吐いて私に背を向けた。
「あの、荷物は近いうちに取りに行きます」
背中に言った言葉になんの反応もしないまま、課長は応接室から出て行った。