君とあたしのわずかな距離を、秒速十メートルで駆け抜ける
「緒川、」
いつもは憎たらしいことしか言わないのに。
こんなの困るよ。
優しい声音で名前を呼ばれて、がしりと掴まれた手。
亮太の手の平は温かくて、大きくて。
その力強い瞳に映るのがあたしじゃないんだと思ったら、むぎゅーっと心臓が悲鳴をあげた。
「……は、離してよ……」
「なんかあったんだろ?」
「別になんもないしっ」
ツン、とそっぽを向く。
せっかく心配してくれてるのにこんな態度はあんまりだ。
そうは思うけれど。
でも、こんな風になった原因は亮太なんだから言えるわけない。
「なんだ? ……ったく、可愛くねぇ」
亮太はムッと歪んだ口元をさらに歪ませ、さらにはため息をついてぐしゃぐしゃと髪をかきあげた。
「……」
あたしは、かさぶたを一気に剥がされたような痛みを覚えた。
前だったらこんな軽口なんて気にならなかったのに……。