不器用な二人はあまのじゃくの関係

受付を通って水族館に入る。

進んでいくとだんだん灯りが少なくなり、私たちの周りは暗いのに対してカラフルなライトが静かに水槽を照らす。

「きれ〜いっ!」

私が水族館が好きな理由がこれ。
キラキラな水槽の中にたくさんの宝石が自由に泳ぎまわっていてアイドルのステージみたい。
いや、三次元のアイドルよりも華やかで美しい。なんて私の好みの問題か(笑)

「あ!」

遥太が指を指てその方向を見ながら言う。

「なに?どうしたの?」

「あれ!あれ!はやく見て!」

「えぇ!?どれ?」

そこにはナポレオンフィッシュが。

「お前そっくり。」

「どこがよ!!」

べしっと遥太の腕を殴る。

「あー、ナポレオンちゃんの方がかわいかったわ」

「悪かったわね!かわいくなくて!」

「うそうそ。かわいいよ、杏奈ちゃん」


ドキッ


意地悪な顔でふっと笑う遥太。
遥太は甘えているとき“杏奈ちゃん”って呼ぶ。
甘えているっていうとラブラブ感が出るけど実際はふざけ半分ってところかな。
でも、それでも、その言葉だけで私の胸は高鳴った。

「ふ、ふざけないでよ!そんなこと言って機嫌とろうしても許さないんだから!」

「怒んなってー。シワが増えるぞー?
あ、あのピンクの!杏奈好きそうだぞ」

「え!ピンク!?どこどこ??」

「あれだよ。」

そう言って遥太は私の後ろから手を掴み、人差し指だけ立つように握らせてピンクの魚の方に向ける。


ドキッ


ち、近いよ…
この状況を説明すると、遥太の胸におさまっているようなかたちになる。
無意識でやっているのか、違うのか。
もし、無意識でだったら相当罪な男だ。

「見えた?」

ケロッとした顔で聞いてくる遥太。これで無意識なのだということはほぼ確信となった。

「…見えた見えた!」

「かわいいだろ〜」

「う、うん」

実際は全然見えてない。
どこにいたのかもわからないけど、ドキドキしすぎて他の魚も見えていない。
そんなの当たり前。だって今私は大好きな人に抱き寄せられている状態なんだから。

「ほい、行くぞ〜」

「あ、うん。」

何もなかったかのようにスっと離れて先に歩きだした遥太は私に来い来いと手を縦に振る。
私は遥太に追いつくように駆け足で近づく。

「杏奈はほんっとピンク好きだよなぁ」

そんなことを言う遥太に私は照れる。
だっていつ言ったか私でも覚えていないことをなんでも覚えていてくれるんだもん。

「うん。かわいいもん。」

照れていることに気づかれないように冷静に返事をする。
私は本当にかわいくない。


< 36 / 70 >

この作品をシェア

pagetop