真愛



「俺を見ろ」

私の頬を両手で包み、自分の目線と合わせる。

そこには瀧ではなく、尊の顔。

「みこ、と……?」

「あぁ、俺だ。ここはどこだ?」

「尊、の……いえ…」

「そうだ。俺は尊でここは俺の家。ここにはお前を傷つける奴はいない」

真剣な表情で私を見つめる。

するとポロポロと自分の目から涙が流れる。

心臓がバクバクと激しく動く。

息がしにくい。

「み、こと……」

掠れた声で呟くと、苦しげな表情で私を抱き締める。

一定の間隔で私の背をトン、トンと叩く。

まるで子供をあやすかのように。

「もう大丈夫だ。ここには俺とお前しかいない。聖藍なんかいない」

その言葉に涙の勢いは増す。

夢、だったんだ……。

私が落ち着くまでどれくらいの時間が経ったのだろう。

その間、ずっと私を抱き締めてくれていた。

尊の胸に顔をうずめ、柑橘系の香りを確かめる。

スカルプチャーじゃない。

瀧じゃない。

安心するようで、何だか悲しい。

隣にいるのは瀧じゃない。

呼吸も落ち着いた頃、私はゆっくりと尊から離れた。

「ありがとう…。ごめんね、驚かせたよね」

「こういうことはよくあるのか?」

「……うん」

私の体に染み付く“トラウマ”

毎晩のように繰り返されるあの悪夢。

ここまで酷いのは久々だった。

きっと、聖藍に会ったからだ。

あの瞳を思い出すだけで体が震える。

あれから数ヶ月経った今でも、あの日の記憶は消えない傷跡として刻まれている。

そう痛感させられる。

「とりあえず水飲め。すごい汗だ。拭くもの持ってくる」

そういってベッドを離れようとする尊。

反射的にシャツの裾を握り締めた。

「どうした?」

あまりにも優しい声で聞くから、俯き呟いた。

「もう少し…ここにいて」

やわらかく笑い、私のそばに座る。

何も聞かずに、ただそばに。

それがとても心地よかった。





< 34 / 174 >

この作品をシェア

pagetop