オオカミ専務との秘めごと

「大きいですね。それにひろーい」

「そうか?普通だと思うが」


大神さんは首を捻るけれど、私にとっては衝撃的なキッチンだ。

茶碗を三つ並べて置けばいっぱいになるアパートの小さなシンク。

これはその三倍以上はあって、大きなお鍋もじゃぶじゃぶ洗えそうだ。

どこもかしこもピカピカで一度も使っていないみたい。やっぱり料理はしないのかな。

けれど、冷蔵庫は意外に大きい。


とりあえずドアを開けて中をのぞくと、昨日のケータリングの残りと牛乳と卵がある。

食パンがカウンターに置いてあるから、フレンチトーストにしようかな?

そんなことを考えながら物色していると、背中にぬくもりを感じた。

え?と思うのと同時にドアを持つ手にてのひらが重ねられて、体がぴくんと震えてしまう。

顔の横にスッと大神さんの顔が現れて、頬が触れそうに近くなった。

咄嗟に離れようとするが、ドアと彼の体に阻まれて身動きができない。


「食材、何もないだろ」

「あ、あの、あんまり料理はしないんですね?」

「まあ、独りだしな。だが、まったくできないわけじゃないぞ。そこ、勘違いするな」


彼は、ドイツにいたときはほとんど自炊していたという。

お料理する姿はなんとか想像できても、スーパーで買い物かごを持つところがどうにもイメージできない。

だが、近所のスーパーにはたまに行くらしい。


「意外です」

「まあ、よく言われるな」


< 134 / 189 >

この作品をシェア

pagetop