オオカミ専務との秘めごと
「大きいですね。それにひろーい」
「そうか?普通だと思うが」
大神さんは首を捻るけれど、私にとっては衝撃的なキッチンだ。
茶碗を三つ並べて置けばいっぱいになるアパートの小さなシンク。
これはその三倍以上はあって、大きなお鍋もじゃぶじゃぶ洗えそうだ。
どこもかしこもピカピカで一度も使っていないみたい。やっぱり料理はしないのかな。
けれど、冷蔵庫は意外に大きい。
とりあえずドアを開けて中をのぞくと、昨日のケータリングの残りと牛乳と卵がある。
食パンがカウンターに置いてあるから、フレンチトーストにしようかな?
そんなことを考えながら物色していると、背中にぬくもりを感じた。
え?と思うのと同時にドアを持つ手にてのひらが重ねられて、体がぴくんと震えてしまう。
顔の横にスッと大神さんの顔が現れて、頬が触れそうに近くなった。
咄嗟に離れようとするが、ドアと彼の体に阻まれて身動きができない。
「食材、何もないだろ」
「あ、あの、あんまり料理はしないんですね?」
「まあ、独りだしな。だが、まったくできないわけじゃないぞ。そこ、勘違いするな」
彼は、ドイツにいたときはほとんど自炊していたという。
お料理する姿はなんとか想像できても、スーパーで買い物かごを持つところがどうにもイメージできない。
だが、近所のスーパーにはたまに行くらしい。
「意外です」
「まあ、よく言われるな」