オオカミ専務との秘めごと
やみくもにずんずん歩いていると、見覚えのない道にいることに気が付いた。
まわりには住宅ばかりが建っていて、すぐ横にはホテルみたいにゴージャスな外観のマンションが建っている。
「ここ、どこ?駅に向かって歩いていたはずなのに」
駅から離れてしまったみたいで、戻ろうにも、どこをどう歩いてきたか記憶にないし、暗いから方向がよくわからない。
なんて間抜けなんだろう、自分がいやになる。
「どうしよう」
時間は既に十時をまわっていて、道を訊くにも誰も歩いておらず、外灯が照らす夜道が続くだけだ。
とりあえずゴージャスマンションの隣の脇道に入ってみると、前方にコンビニを見つけてホッとした。
あそこで暖をとりつつ道を尋ねよう。
駐車場にはあまり車がないけれど店内にはたくさん人がいて、雑誌の立ち読みをしている人の中には女性の姿もある。
あの人に道を聞いてみようかと思いつつドアを開けて入ろうとしたら、肩が何かにぶつかって外に弾き出された。
「きゃっ」
コンビニ袋がガサッと音を立てて「おっと」と低めの声がして、よろけた体がガシッと支えられた。
「すみません、前をよく見てなくて。大丈夫ですか」
「はい。こちらこそ、すみません」
見上げれば、相手は背の高い男性だった。
黒のダウンジャケットのカジュアルスタイルで結構若い。
でも、この綺麗な二重瞼の顔は、なんか見覚えがある気がする。