オオカミ専務との秘めごと
すると、奥に向かう廊下の隅に松野下さんがいた。
壁に向かってぼそぼそと呟いていて、どうやら電話をしているよう。
「・・・仕事で遅くなる。今夜は田辺の家に泊まるから、待ってなくていいよ」
そう言っているのが聞こえてきて、思わず自分の耳を疑った。
「明日の昼までには帰るよ。・・・マナミ、愛してるよ」
後半の台詞を聞いた途端、衝撃が走って思わず観葉植物の影に隠れた。
電話の相手は彼女だろうか、それとも奥さん?
そんな大切な人がいるのに、あの人は合コンに来たのか!
それだけならまだしも、二人きりになろうって、私を誘うなんてどういうつもりか。
しかも、外泊予定までたてているなんて!
ふわふわとした気分が一気に地の底まで沈み、熱も一気に冷める。
無言で踵を返してハンガーにかけてあったコートを取って店を出た。
ひゅうぅぅぅと強風が吹くけれど、ショックのせいか寒さなんて微塵も感じない。
地味でウブそうな私なんか簡単に落とせると思ったのだろうか。最悪だ。
「いい人だなあって思ったのに・・・」
朝のやくざ男といい、松野下さんといい、男ってホントしょうがない。
でも、変なことになる前に気づいてよかったかも。
メロメロに好きになって、はい奥さんがいます~なんて告白されたら目も当てられない。