オオカミ専務との秘めごと
「おはようございまーす!」
みんなに声を掛けると、新聞に広告を挟む作業をしながら元気な声で挨拶を返してくれる。
バイトと正社員を合わせて総勢八人。
男性と女性、年齢は学生の子から定年を過ぎた七十代のおじさんまでいろいろだ。
「おはよう、菜緒ちゃん。今日は新規があるの。三丁目の脇田さん。今日から入れてね」
「はい。えっと三丁目というと・・・」
配達リストに書かれた住所から地図を確認して、風景を思い浮かべる。
確かこの住所の辺りは、最近建ったばかりの大きな家があるはず。
大きな犬がいる、大塚さんちの隣だ。
道順に新規を入れ込み、私もみんなに混じって新聞に広告を挟んで、配達リストの順番に並べてバイクに積み込んだ。
エンジンをかけると、店長が慌てて事務所から出てきて手に持ってる紙をひらひらさせた。
「菜緒ちゃん、新しいところの地図はいいの?」
「大丈夫!頭に入ってるから。いってきます!」
十六歳から初めた新聞配達は、今年でもう九年目。
塚原新聞店の中でも、ベテランと言っていいくらいだ。
担当する区域は、細い路地も行き止まりも工事中の場所も、ぜーんぶ、隅々まで知っている。
各銘柄の新聞をポストに入れて、新規の家にも間違いなく投函する。
アパートや低階層のマンションはエレベーターを使わずに階段を駆け上がる。
そうしていると体があったまってきて、冬の今でも、バイクで風を切るのが心地よくなってくるのだ。
最後の配達先に向かっていると、前方の道の隅、街灯の下に黒っぽい車が停まっていた。