オオカミ専務との秘めごと

そばにあるのは高級なマンションで、経済新聞を購読するようなセレブな人たちが住んでいるところ。

住人たちの車はきちんと駐車場に入っていて、いつもは誰も道に停めていない。

珍しいなと思いつつ車の方へ近づいていくと、思わず「あ!」と声が出てしまった。

運転席の人が助手席の人を抱き寄せているのが見えるのだ。

そして、男性が女性の顔に覆いかぶさって、微妙に動いているように見える。

ドラマでもよく見るシーン。

そう、あれはきっと・・・キス、してる。


どうしよう、見てしまった!生キスシーンは初めてだ。それもこんな早朝に!


あの車のそばを通っていいものかと、頭の中が大騒ぎになる。

生まれてからずっと恋人がいたことがない私は、男女の営みに対する免疫が皆無なのだ。

顔に血が集まるのを感じ、ドキドキしながらも車の横を通り、マンションのエントランスそばにバイクを停める。

そして頭の中からさっきのシーンを追い払うがごとく、全力ダッシュの勢いで配達を済ませた。

おかげで息が上がったけれど、今日も事故もなく無事に配達ができたという充実感を味わう。


新聞店に戻ろうとバイクを走らせ、マンションから道に出る前に一旦停止をして左右を確認する。

すると、まだ例の車が街灯の下に停まっていた。

再び、さっきの熱い抱擁を思い出してしまいドキドキする。

もしやまだ中にいるんだろうか。

こんな早朝に車の中でキスをするなんて、どんなシチュエーションなんだろう。

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