オオカミ専務との秘めごと
内容が付き合うだの何だのとあらぬ方向に向かっているのは、二人の関係が原因なんだけど、聞いてる私としては困ってしまう。
これは、私が翻訳を引き受ければ収まるんだろうか・・・。
「おい長谷部。それを貸してみろ。俺が訳してみるよ」
突然加わった柔らかい口調の声で、三人を包む空気ががらりと変わった。
声がした窓際の方を見れば、楢崎さんが主任デスクに座ったまま長谷部さんを手招きしている。
「だからこっちへ来い」
「え、よろしいんですか!?楢崎主任はお忙しいでしょう?」
「いいから、来い。お前ら注目浴び過ぎだから」
楢崎さんの一言で、少し微妙な空気だった部内に笑いが起こり、一気に和やかになる。
すいません!と言って、長谷部さんは照れ隠しに頭を掻きながら楢崎さんの元へ向かった。
それを見送った佐奈は椅子に座ったけれど、まだ怒りモードが抜けていない様子で、口を尖らせて何やらブツブツ言っている。
「ありがとう、佐奈」
「いいのよ。二課の問題は二課で片付けるべきなの。まったく非常識なんだから」
二年先輩の長谷部さんにも、強気の姿勢で言える佐奈はすごいと思う。
メイクもスタイルもお嬢さま風で、パッと見「なにもできませ~ん」という弱気なイメージを与えがちだけど、中身は姉御肌だ。
おかげで余計な仕事をしないで済んだことに感謝し、集計の仕事に力を注いだ。