オオカミ専務との秘めごと



顎に指がかかり上を向かされ、顔が近づいてきたので咄嗟に手のひらで防いだ。

大神さんの唇が手のひらに当たり、不機嫌そうな声で呻いている。

でもまさかキスで思い出さそうとするとは!


「お、思い出しましたからっ。それは、しなくていいです!」

「ならばスナフキン。いろいろ、きっちり、説明してもらうぞ」

「・・・はい」


もう観念するしかない。彼は私が新聞屋だと確信しているのだ。

覚悟を決めて大神さんの後についていくと、そこは駐車場だった。

黒塗りの車に乗るように言われ、素直に助手席に座る。


「どこに行くんですか?」

「ゆっくり話ができるところだ。取って食いはしないから安心しろ」


大神さんは三十分ほど車を走らせ、着いたのはオオガミホテルだった。

フロントを通ることなく、さっさとエレベーターに向かっていく。

最上階の端っこの部屋に「入れ」と言われておそるおそる足を踏み入れた。


スイートルームというんだろうか。

ふわふわの絨毯が敷かれ、ソファセットが置かれたリビングみたいな部屋と、大きなベッドがある寝室と二つある。

初めて見るその豪華さに目を見張ってしまう。


「ここは、俺が常にキープしてある部屋だ。誰にも邪魔されずに、ゆっくり過ごせる」


大神さんは上着を脱いで、ソファに座った。

スナフキンも座れと言われ、すみっこに浅く腰掛ける。

いつでも逃げられるよう、バッグをしっかり抱きしめた。


「そんなに警戒するな。食わんと言っただろうが」


そうは言われても、こんなシチュエーションじゃ気が抜けない。

だって、突然キスしようとしてくるオオカミなんだもの。


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