オオカミ専務との秘めごと
「じゃあ話してもらおうか。うちの社員なのに、なぜ新聞屋なのか。どうして、俺に電話をしてこなかったのか」
「それは、話せば長くなるんですが。実は私・・・」
両親の死と今の経済状況を順を追って話していくと、大神さんは腕を組んで真剣な表情で耳を傾けてくれた。
「分かった。想定外の深刻さだな。だが、就業規則は知っているだろう。副業は禁止だ」
「ですが、今、どちらの職を失っても困るんです。なんとか見逃していただけませんか。お願いします!あと二年と少しなんです!」
一生懸命頭を下げるも、大神さんは見逃すわけにはいかないと首を横に振った。
「専務としては、新聞屋を辞めろとしか言えん」
「そ、それは・・・」
唇を噛んで涙をぐっとこらえる。
新聞配達を辞めたら、これから雄太への仕送りをどう工面すればいいんだろうか。
「新聞屋の給料はいくらだ?」
「・・・八万から九万の間です」
「そんなもんなのか。朝早いわりに安いんだな」
「新聞は歩合制で、給料はどの銘柄を何部配ったかで決まるんです。私は本業に間に合うよう最低限の件数を担当してるんで、このくらいです」
「つまり、毎月九万増収すれば、新聞屋は辞められるということか」
大神さんが顎に手を当てて考え込むような仕草をしている。