隣の部屋と格差社会。
佐渡さんは一言も発さない。
運転するその横顔からは、なにも読み取れないけど。
心配、してくれたのかな。
そうだとしたら、やっぱり嬉しい。
飛び上がりそうなくらいに嬉しい。
頰に集まっていく熱は、『MAX』のエアコンでも冷めなくて、耳まで熱くなってきた。
自分でも、浮かれているのが分かる。
あと少しでマンションに着くところで、赤信号に引っかかった。
「なんで、来てくれたんですか?」
もう抑えがきかない。
気になる。聞きたい。
佐渡さんの気持ちを、真意を知りたい。
「放っておけないんだよ、お前のこと。」
静かな車内に響いた佐渡さんの心地の良いテノール。
驚いて運転席の横顔を見ると、なぜか佐渡さんも驚いた顔をしていた。
言ってしまった、そんな感じの顔。つい漏らしてしまった、そんな顔をしている。