ミチオ
「やっとスタートラインに立てたね。」


私の頭の上から柔らかくもどこか飄々とした声が降ってくる。


「うん。」


「僕も立てた。スタートライン。君のお陰。」


「うん。」


「何から聞こうかな。」


「うん。」


「うんしか言わないじゃん。」


「だって胸がいっぱいでーーー」って言おうとしたら


「先にキスしてからでもいい?ニャオちゃん可愛いんだもん。」


もぉ…、そんな調子のいいこと言って…


照れながらも顔を上げ目を閉じようとしたけれどーーー


「やっぱり、ダメだよ。」


僅かに残ってた理性が慌てて彼の胸を押す。


「なんで?」


「なんでって…。ここ、公園だよ?」


「ケチ。」


「ケチとかそういう問題じゃない。」


「じゃあ、なに?」


「何って…子供!教育上悪い。」


もう既に公園の片隅で抱き合う私達にママさんやその子供達の視線が一斉に集まっている。


「チェッ。」


そう言う割にはさほど悔しそうでもない。


「仕方ない。じゃ、行こうか。」


そう言うとあっけなく私を解放し、スタスタと先に歩きだした。


「えっ、ちょ、ちょっとどこに行くの?」


「僕の家。ほら。」


そう言いながら手を差し出してくる。


「家?あるの?」


聞き返しながらも素直に手を差し出す。


あの時と同じ温かい大きな手。


「あのさぁ、僕を勝手にホームレスにしないで。これでもそこそこ稼いでる。」


少し胸を張って言うのが可笑しい。


「うん、そうだよね。ここから近いの?」


手を引かれたままついて歩く。


「君の名前と幾つかの情報を聞けるくらいの時間はあるかな。聞いていい?知りたいんだ、君の事。」


立ち止まり真剣な表情で問い掛けてくる。


それはファインダーを通してじゃなくちゃんとお互いの視線を合わせながら。


「いいよ。教えてあげる。」


「じゃあ、名前から。」


「いいわよ。名前はーーーー」








漸く傾き始めた日差しが私達の影を柔らかく伸ばしていた。


今、私達はスタートラインに立ったばかりだ。


これから先の未来へ向けて。










ーーーーねぇ、これからはなんて呼ぼうかな?ミチオじゃなくて満(みちる)がいい?


ーーーううん、ミチオがいい。気に入ってるんだ僕らしくて。道案内が得意なミチオ。君に貰った大事な名前だから。




























































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