あの春、君と出逢ったこと
翠が髪を結び終わったのを見た山先生が、私達を交互に見ながらボールを投げる準備をする。
そんな山先生に頷き、翠よりも一歩前に出る。
反対側を見ると、一歩前に出たのは春さんで、ジャンプをする構えをとる。
……不利だ、これ。
私よりも圧倒的に身長の高い春さんを見て、ジャンプで勝負する以外の方法を考える。
春さんは絶対にボールを秋さんの方にとばす。
なら、そこを狙ってとるのが1番効率がいい。
それがうまくいかなかったら、翠に阻まれた秋さんが春さんにパスをするタイミングでボールをとる。
……くらいしかないよね?
ごめん。という意味を込めて翠の方をちらりと見ると、呆れたように翠が笑う。
(ま・か・せ・て)
口パクでそう言ってきた翠に、笑顔で頷く。
『……いくぞ!』
そう言った山先生は、言葉とほぼ同時にボールを高く上に投げる。
『キャー!!! 春〜!』
広い体育館に、女子の黄色い声援が響き渡る。
予想通り、ボールを取ったのは春さんで、そのまま秋さんにボールが渡る。
『翠!』
私の声と同時に秋さんに近づいて道をなくす翠。
そんな翠に焦り、秋さんが慌てて春さんにパスを出すのを見計らい、飛び出してボールを奪い取る。
『夏川チャン!?』
コート外から、そんな驚きの声を快斗くんがあげたのを無視して、そのままゴールに向かっていく。
『させるか!』
私の打とうとしたボールを、いつの間に追いついたのか、秋さんが横から手を伸ばす。
そんな秋さんにフェイントをかけ、翠にボールを渡す。