あの春、君と出逢ったこと
『そうか』
私の言葉にそう返した煌君は、何となく、嬉しそうな表情を浮かべていたような気がした。
『次、お前らだよ! 煌、快斗!』
反対側のコートで、男子がそう叫んだと同時に、秋さん達を含めた女子の大群が、一斉に反対側のコートに動いていく。
『……あれ、何?』
『あんなものよ』
私の問いに答えた翠も、いたって平然と、普通の顔で反対側のコートに移る。
『翠、私、あんなに人いるなら、シュートの練習したい』
女子の大群を指し、ガラガラに空いている女子側のコートを見てそう主張する。
『……それも良いわね』
『イヤ、翠チャン達に見て欲しいんだけど⁉︎』
私の言葉に肯定した翠に、後ろで歩いていた快斗君が、すかざすツッコミを入れる。
『私、あんなに人いたら見れないんですけど』
平均的な身長ですから?
あの女子大群の前へ前へ行く事もできず、だからと言って、後ろでは見えないんですよ。
そう言って少しスネ気味になる私の頭の上に、手が乗っけられる。
『ん?』
『お前、チビだからな? 仕方ないだろ』
顔を上げた私と目があった煌君は、私の頭に手を置きながら、そう言ってニヤリと笑う。
『小さいんじゃない! 平均!!!!』
『小さいのに変わりはねぇ』
私の反論を鼻で笑い飛ばす煌君を、思いっきり睨みつける。
『……何だ?』
『煌君、見かけによらず意地悪だよね?』
睨みつけたままそう言うと、少し驚いたように目を見開く煌君。
『……どうだか』
でも、その表情も一瞬で、すぐに元の無表情に戻った煌君は、私達を追い越して、スタスタと先を歩いていく。