あの春、君と出逢ったこと
『おい、煌! ちょっと待てよ!』
そのあとを急いで快斗君が追っていく。
快斗君はそのまま、足を止めずに歩き進める煌君の耳元で何かを呟き、顔をにやつかせる。
快斗君が何か呟いた瞬間、バッと顔を快斗君に向けた煌君は、すぐに快斗君から顔を逸らした。
『快斗君、なんて言ったのかな?』
私の隣をゆっくり歩く翠に、そう聞くと、前を向いて快斗君たちを捉えた翠は、驚いたようにこっちを振り返る。
『……ん?』
『栞莉、あの距離、見えてるの?』
快斗君たちの方向を指してそう言った翠に疑問を感じながらも、一応頷く。
『あんた、色々と鬼ね』
答えにならない返事を返してきた翠が、余計にわからない事を言ったためなのか、頭の中が疑問だらけになる。
……まぁ、いいよね。
考えても分かんないし!
考えるだけ無駄か、と思った私は、そろそろ始まる試合を見るために、翠の手を掴んで、コート……ではなく、ギャラリーまで駆け上がっていく。
だって、コートは人が多すぎて見えないし。
山先生も、ギャラリーに上がっちゃダメなんて言ってなかったし。
『し、おり! イキナリ走らないでよ』
私に手を引っ張られ、ギャラリーまで走らされた翠は、肩で息をしながら私を睨む。
そんな翠に笑いながら両手を合わせて謝り、下を覗き込む。
下では丁度、煌君達が、試合を始めるため、お互い向き合っていた。
『翠、始まる!』
『隣に居るんだから、大声出さなくてもいいわよ?』
『ごめんごめん』
よほど煩かったのか、呆れたような表情になった翠にそういいって謝る。