あの春、君と出逢ったこと





『おい、煌! ちょっと待てよ!』



そのあとを急いで快斗君が追っていく。


快斗君はそのまま、足を止めずに歩き進める煌君の耳元で何かを呟き、顔をにやつかせる。



快斗君が何か呟いた瞬間、バッと顔を快斗君に向けた煌君は、すぐに快斗君から顔を逸らした。




『快斗君、なんて言ったのかな?』


私の隣をゆっくり歩く翠に、そう聞くと、前を向いて快斗君たちを捉えた翠は、驚いたようにこっちを振り返る。



『……ん?』



『栞莉、あの距離、見えてるの?』




快斗君たちの方向を指してそう言った翠に疑問を感じながらも、一応頷く。



『あんた、色々と鬼ね』



答えにならない返事を返してきた翠が、余計にわからない事を言ったためなのか、頭の中が疑問だらけになる。




……まぁ、いいよね。

考えても分かんないし!



考えるだけ無駄か、と思った私は、そろそろ始まる試合を見るために、翠の手を掴んで、コート……ではなく、ギャラリーまで駆け上がっていく。




だって、コートは人が多すぎて見えないし。


山先生も、ギャラリーに上がっちゃダメなんて言ってなかったし。



『し、おり! イキナリ走らないでよ』



私に手を引っ張られ、ギャラリーまで走らされた翠は、肩で息をしながら私を睨む。



そんな翠に笑いながら両手を合わせて謝り、下を覗き込む。



下では丁度、煌君達が、試合を始めるため、お互い向き合っていた。



『翠、始まる!』

『隣に居るんだから、大声出さなくてもいいわよ?』



『ごめんごめん』



よほど煩かったのか、呆れたような表情になった翠にそういいって謝る。





< 30 / 262 >

この作品をシェア

pagetop