あの春、君と出逢ったこと
『あの家?』
そう言って、目の前に立っていた二階建ての家を指しながら翠の顔を覗き込む。
適当だけどね?
『そうよ』
私の言葉に、驚く様子もなく普通に頷いた翠に、思わずツッコミをいれたくなるのを堪える。
だって、そうよ。って!
なんかもっとこう……凄いわね。的なリアクションが欲しかったんだけど……。
『入らないのか?』
家の前で1人葛藤していた私に、すでに家の中に上がっていた快斗君が靴を脱ぎながらそう聞いてくる。
『あ、入る!』
そんな快斗君を見て、慌てて一言言って家の中にあがり、靴を脱ぐ。
そのまま快斗君の後をついて行くと、リビングらしきところで翠がお茶を用意していた。
『翠、お茶なんて要らないよ?』
そんな翠に慌てて要らないことを告げるも、遠慮なんて良いのよ。なんて言いながらドーナツまで用意し始める翠。
『煌から聞いたわ。
栞莉、ドーナツが好きなのよね?』
口角を上げながらそう言った翠に、私よりも先に隣にいた快斗君が反応する。
『なんで煌から?』
『2週間前くらいだったかしら?
駅前のドーナツ屋に行った時に聞いたらしいわ』
……絶対煌君が自分から言う訳ないし。
きっと、翠が根掘り葉掘り聞き出したんだろうなと思いながら、その翌日のやつれた煌君を思い出す。
だからあんなにやつれてたのか。
昨日何かあったんじゃないかって密かに心配してた私が馬鹿みたいだよ。
『先に煌の部屋行ってみてくれないかしら⁇
私達が行くよりも素直にいろいろ聞いてくれると思うのよ』
私に準備したタオルと薬と着替えを手渡してながらそう言った翠に、急いで手を引っ込める。
『な、ナチュラルに渡そうとしないでよっ‼︎
受け取ろうとしたじゃん!』
あんな自然に手渡されたら、受け取っちゃうものだと思うよ?
騙されなかった私、凄い方だと思うんだけど。