あの春、君と出逢ったこと
『……いい⁇ 栞莉。
あいつはね、私の言う事なんて絶対に聞かないのよ。
快斗の言うことにも聞く耳を持たないわ。
でも、早く治る為には薬とか必要でしょう?
栞莉の言葉なら聞いてくれると思うの』
私の目を見ながら、そらさずに真剣にそう言ってくる翠に、諦めて着替え等を受け取る。
『煌の部屋は、階段を上がって2番目の左の扉よ。
寝てるはずだから、ノックしなくてもいいわ』
行ってらっしゃいと笑顔で付け加えた翠と、手元にある着替えを交互に見比べる。
行かなきゃいけないのかぁ……。
快斗君に視線をむけても、笑顔でガッツポーズされるだけだし。
『……行ってきまーす』
溜息と共にそう言ってリビングを出て、音を立てないように階段に足をかける。
溜息も多い日だな、今日は。
今日絶対厄日だよ‼︎
この調子だと、階段から足を滑らせそう……。
自分で考えながら、顔が真っ青になって行くのを感じて、慌てて階段を登り切る。
自分が登ってきた階段を振り返り、滑らなかったことに安堵して左側に視線を向ける。
『えっと……左側の2番目の扉の部屋だから』
音を立てないように気をつけて廊下を進み、2番目の扉の部屋の前に立つ。
その扉には煌と書かれたプレートが吊るされてあり、煌君の部屋だとすぐに分かった。
翠はノックしなくても良いって言ってたけど、した方が良いよね?
自分の中でそう解決して、右手で拳を作って扉を二回軽く叩く。
……返事、なし。
やっぱり寝てるのかな?
息を潜めて、ドアノブをゆっくりと回し、少しずつ扉を開いて中の様子を伺う。
『……煌、君⁇』
真っ暗な部屋の中の片隅で、ベットに横になっている黒い塊を見つけ、ゆっくりと中に入っていく。