妻に、母に、そして家族になる
「……」

さっきまで楽しそうだった信濃さんも口を閉ざしてしまい、私達の間に気まずい空気が流れてしまう。

「俺、そろそろ仕事に戻らないといけないから」

「私はもう少しここにいます」

「そう。じゃ、今夜電話するから」

「はい……」

信濃さんは立ち上がると自然に伝票を持って店を出てしまう。

去り際の顔、とても悲しそうに見えた。

私の胸のもやもやもそのまま。むしろ時間が経つ毎に強くなっているような気がした。

夜になり、ホテルのベットに座りながら、今か今かとスマホの前でスタンバイをしていた。

そして着信音がなるとワンコール目で電話を出た。

「はい、橘です」

『こんばんは』

電話越しに聞こえる声は明るくて、昼のような気まずさを感じない。

『昼間の話しなんだけど、ハルが良いって』

「そうですか」

『じゃ、橘さんの返事を聞かせてくれる?』

「はい」
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