妻に、母に、そして家族になる
白湯を作ってからソファで缶ビールを飲む信濃さんの隣に座る。

フーフーと白湯を冷ましながらゆっくり飲んでいたら、信濃さんが口を開く。

「今日夕飯作ってくれてありがとうね。すごく美味しかった」

「いえいえ。そう言っていただけて嬉しいです。……あの、信濃さん」

「ん?」

「やっぱりこの家に住まわせてもらっている以上、何もせず、ただお世話になるのはダメだと思うんです。だから少しでも家賃を払わせてくれませんか」

「いやでも、新しい部屋に住むなら金が掛かるし、こっちは生活が厳しい訳じゃないから橘さん一人ぐらい大丈夫だよ」

そんな優しい言葉を掛けてくれても、私の性格上、その優しさは逆に申し訳なくて辛いだけ。

何もせずに部屋を間借りして、タダ飯なんて心苦しいし、なにより落ち着いて暮らすことができない。
< 62 / 128 >

この作品をシェア

pagetop