初恋
第七話 涙と手紙

 迎えのタクシーが到着すると修吾は伯母と共に後部座席に乗り込む。車の窓を下げるとすぐ横に深雪の姿が見える。その顔は凛々しく、約束したように涙は一つもない。
「しゅう君、最後にもう一度約束しよう。泣かない、強くなるって」
 深雪は指きりげんまんをするように小指を差し出す。
「分かった」
 修吾も小指を出し指切りをする。しばらく見つめ合っていると伯母がじっと深雪を睨んでいるようで、すぐにタクシーから離れる。
「修吾君。行くわよ?」
 伯母の言葉に修吾は黙って頷く。
「待ってー!」
 運転手がタクシーを発車させようとしたその刹那、前方に突然人が立ち塞がる。窓を開けて覗くと、そこには肩で息をしながら、真っ直ぐ修吾を見つめる直美がいた。
「直美? 何やってんだよ」
「あの、コレ……」
 車に近付くと、直美は白い花柄の封筒を差し出す。
「なんだコレ?」
「引越先に着いたら開けて」
「わかった」
「それと、元気でね……」
「ああ」
 直美はまだ何か言いたそうな顔をしているが、涙を堪えるために敢えて黙っている。
「もういい? 修吾君?」
 伯母の問いに修吾は頷く。ゆっくりと発進するタクシーに、直美は少し追い掛けて立ち止まる。タクシーはあっという間に二人の前から消え去り、虚しさが立ち込めた。
 その場で立ち尽くす直美に深雪は寄り添うように座る。横顔を見ると目をきつく閉じて苦しそうな表情をしており、その姿に深雪は胸が熱くなる。
「なおちゃん。こんなときは、泣いてもいいのよ?」
 直美は首を横に振り呟く。
「みゆお姉ちゃんも泣いてないから、なおも我慢する」
「なおちゃん……」
 深雪は直美を正面から優しく抱きしめる。
「お姉ちゃんは昨日たくさん泣いて涙が出ないだけ。それにね、女の子は泣いた数だけ綺麗になれるの。だから、我慢しなくていいんだよ。思いっきり泣いていいんだよ、なおちゃん……」
 深雪は自分自身にも言い聞かすように直美に語る。その言葉に直美の我慢の糸は切れ、大きな泣き声と共に大粒の涙を流す。優しく抱きしめていた深雪の瞳にも、うっすら涙が浮かぶ。
「今度、しゅう君に会えるその日まで、たくさん綺麗になっとこうね」
 直美は涙を拭きながら何度も何度も頷く。
(ごめん、しゅう君。泣かないって約束したのに……、お姉ちゃんダメなやつだね……)
 直美に見られないよう、深雪もその肩越しで涙していた。

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