クールな御曹司と溺愛マリアージュ
その後なんとか気持ちを切り替えて何事も無かったかのように仕事を続けていた私に、やっぱりというか予想通りの展開が訪れた。


『いつの間に別れてたの?教えてくれればよかったのに』

同期の初見さんがマグカップを持ちながら、わざわざ離れた席にいる私の後ろに立ち止まった。

コーヒーを入れるならこっちは通らないはずなのに。


『笹井さんってあんな顔してよくやるわよね。裏表がありそうな笹井さんよりは柚原さんの方がまだいいのにね』

私は分かりやすく溜め息をつきながら、パソコンを打つ手を止めた。


『まだ』って……。よく言うよ。河地さんと付き合っている事を知ってから、散々私に嫌がらせをして仕事を押し付けてきたくせに。

まさか社会人になってまでそういう事をする人がいるなんて思ってもいなかったから、初見さんの存在はある意味衝撃だった。


『で、いつ別れたの?』


どうしてそんなことを聞きたがるのか、社内の噂や男女関係が大好物な初見さんの考えは、今もこの先も絶対に理解できないな。


『初見さんには関係ありません』


前を向いたまま答えると、『ムカつく』とひと言呟いてその場を去って行った。

肩に圧し掛かった重りが取れたかのように、ふーっと息を吐いて背もたれに寄り掛かる。


『初見さんていつもいつも暇ですよね?自分が河地さんに振り向てもらえないからって』

そう小声で言いながら悪戯っぽい笑みを浮かべる有希乃ちゃんにつられて微笑み返すと、心が少しだけ癒されるのを感じた。


まだ頭の中は混乱しているし本当は仕事どころじゃないけれど……あと少し、集中しよう。




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