クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「柚原さん」


「はっ、はい」

ガタっと椅子を鳴らし、焦って立ち上がる。


「十三時までに引き継ぎ終わらせて、その後すぐに会社に来るように」

「……え?」


佐伯社長は持っていた紙を私のデスクに置き、それだけを言って私の横を通り過ぎようとした。


「ちょ、ちょっと待って下さい」


なに?と言いた気な表情で振り返ったけれど、聞きたい事は山ほどある。

でも時計を気にしている佐伯社長の様子から、長々と質問をしている時間はなさそうだ。



「つまりこれは、私がワームデザインの面接に受かったということでしょうか?」

「それ以外に理由はないだろ」

「そ、そうですけど、十三時までに引き継ぎっていうのは……」

「出来ないのか?」


うっ……。その鋭い眼光に見つめられたら、言い訳なんて通用しない。そう思ってしまう。


「いえ、やります……」


私の言葉に少しだけ頷いた佐伯社長は、そのまま総務部を出て行ってしまった。


やります、っていうか……やるしかないって事でしょ?


私は気持を落ち着かせるかのように、右手を胸に当て軽く深呼吸をした。


どうしよう。ドキドキが治まらない。


全く実感のない合格という事実と、佐伯社長と一緒に働いたらどうなるのかという期待と少しの不安。



そして、こんな私を選んでくれたという喜びが、今にも溢れだしてしまいそうだった。





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