クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「見えるか?」


度が入っていない店内の眼鏡だからか少しだけぼやけるけど、今まで手に取ったことすらないような眼鏡を掛けている私は、まるで自分ではないように見えた。


「細い銀縁が悪いとは言わないが、太くて濃い色のフレームの方がその白い肌に合うし、レンズも大きい方がその目の大きさが際立つ」


テレビや雑誌で見たことがあるような形のそのフレームは、恐らく今流行っているのだろう。

だけどこれを私が着けてしまったら、なんだか流行りに乗ってるとか無理してるとか、周りからそう思われる気がして手を出せずにいた。


「別に深く考える必要なんてない。似合う物は似合う、似合わないものは似合わない。それだけだ」

「はい……。でもこんな可愛い眼鏡、私なんかに似合うでしょうか」

「まだ自分と向き合えてないみたいだな。はぁ、面倒くせ……」

め、面倒くさいって。確かに私は佐伯さんと違って自信なんてこれっぽっちもないけど、そんな溜め息ついて言わなくても。


「だって、仕方ないじゃないですか!私は……」

「うるさい。黙ってもう一回鏡見てみろ」


「えっ、ちょっと」

振り返ろうとした私の顔を両手で挟み、無理矢理前を向かせた佐伯さん。


「その腫れぼったい目をよく開いて見てみろ」

少しムッとしながらも、私は言われた通り自分の顔を見つめた。


「この眼鏡、本当に柚原に合ってないと思うか?」

こんなにもじっくりと自分の顔を見つめたことはないかもしれない。


眼鏡は時々しか掛けないから、五年前のもので十分だと思っていた。

どうせ新しい物を買ったってそれはあくまで視力を補う物で、お洒落の為じゃない。
そう、思おうとしていた。だけど……。


「周りにどう思われたって、お洒落なんて結局は自己満足だ。それに……」


だけど本当は、可愛い眼鏡を買って、似合ってるねって……そうやって誰かに言われたかったんだ。




「俺はこの眼鏡、柚原に似合ってて……可愛いと思うけど」




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