クールな御曹司と溺愛マリアージュ
瞼が重く感じるのは目が腫れてるからじゃなくて、目に溜まったものが流れないようにと、必死に力を込めてるから。


人に勧められたり流行りに流されるのは嫌だった。
それは、そういう服を着たり身に付けたりしている自分を想像するだけで、あの日河地さんに言われた言葉が勝手に頭の中で繰り返し流れてくるから。


私には似合わない、だって私は地味でダサいから……。


それでも本当は、可愛くなりたくて。本当は、ダサいって思われたくなくて。

本当は……。


涙が零れそうになり、咄嗟に俯いて眼鏡を外した。


「なんだ、やっぱ気に入らないか?」


佐伯さんはただ自分の理想を押し付けるんじゃなくて、私の顔の特徴をちゃんと説明した上でこれを選んでくれた。

だからきっと、私は佐伯さんの言葉を受け入れることができたんだ。


佐伯さんの言葉に大きく首を振り、私はもう一度手に持っている眼鏡を掛けて鏡を見つめた。


「凄く……凄く、気に入りました」


この眼鏡はきっと、自分に自信をつけるための第一歩になる。


「当たり前だろ、俺が選んだんだ。あと言っとくが、別に流行ってるからこれを選んだわけじゃない。俺だって世の中の流行りが全てだと思ってないし、抜け感てなんだよ、なんでも〝感〟付けやがって。って思ってるぞ」

「はい、分かってます」

クスッと笑った私は、佐伯さんに選んでもらった眼鏡を持ってレジに向かった。


「は?まさか今買うのか?」

「そうですよ。とりあえず視力測ってもらって注文します。なので佐伯さんは先に行ってて下さい、終わったら電話しますので」


まさかすぐに買うとは思わなかったのか、佐伯さんは唖然とした後「先に飲んでるからな」と言い残して店を出ていった。


普段はあまり掛けないけど、何かあった時にこの眼鏡を見たら、少しは上を向くことが出来るかもしれない。


仕事も自分磨きも、もっともっと頑張りたい。

それと、私の心の中に芽生えた僅かな気持ちも……。





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