クールな御曹司と溺愛マリアージュ
大失態からの目覚め

 *

遅れること三十分、電話で聞いた居酒屋に着いた私は平日ど真ん中だというのに割と混んでいる店内で三人の姿を探した。

「いらっしゃいませ」

「待ち合わせなんですが」

店員さんに向かってそう言うと、奥の座敷から大きく手を振っている成瀬君が見えた。


ついさっきの出来事だったのに、眼鏡屋でのことを思い出すとなんだか恥ずかしくて、佐伯さんの顔がまともに見れない気がする。

私を励ます為、あるいは自信をつけさせる為なんだろうけど、『可愛い』と言った佐伯さんの低い声が頭から離れない。


「恵梨ちゃん遅いよー」

「すいません」

まだそんなに時間は経ってないはずなのに、成瀬君の顔がほんのり色づいているように見えた。


成瀬君と拓海さんが並んで座っていて、向かい側に佐伯さん。ということは、私は佐伯さんの隣か……。

もちろんこんな風に戸惑っているのは私だけで、佐伯さんは相変わらずな表情で私を見ることもなくビールを口に運んでいる。



「じゃー恵梨ちゃんのお酒もきたし、改めて乾杯しましょうよ。ほら佐伯さん、ひと言」

「は?なんでだよ」

「社長なんだから当たり前ですよ」

成瀬君はワームから異動してきたから付き合いはそんなに長くないはずなのに、こうして見ていると拓海さんも含めて昔から知っている気心知れた仲間のように思えて仕方がない。


「そういうのは拓海の仕事だ。俺はいい」


子供のように拒否する佐伯さんは不愛想だしシャイだし、父親であるワームの佐伯社長とは親子なのにまるで性格が違うな。


「じゃー照れ屋な社長に変わって。四人でこれから協力して、どんどん会社を盛り上げていきましょう!乾杯!」


「乾杯!」



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