夏の日、僕は君の運命を変える
第13章 31年5月2日






僕のスマートフォンが時空を超え1週間。

大学内の階段教室に着き座ると、後ろから頭を叩かれた。




「イテッ!」

「水樹!」

「何だよ太田…いきなり叩かないでくれない?」

「お前何で既読つかないんだよ」

「既読……あぁ!」



僕は鞄の中からアルバイト代で買った同じようなスマートフォンを取り出した。



「ごめん、スマホ変えたんだ」

「マジで?何で」

「落とした拍子に壊れちゃったみたいで、アハハ」

「笑い事じゃねぇだろ…」



呆れ顔の太田とラインのIDを交換する。



「それで?僕に何のメッセージ送ったの?」

「今日の講義の教室変わるってこと」

「え!?」

「今朝見ても既読ついていなかったから、もしやと思って来てみたんだ。
ここは健康福祉学部の生徒が使うんだとよ」

「健康福祉学部ってことは、宍戸先輩?」

「そ、俺の学部」



茶色い鞄を肩から下げた宍戸先輩が笑う。

宍戸先輩がキャプテンを務めるバスケサークルに所属している太田は、元気良く挨拶していた。

僕も太田より控えめだったけど挨拶をすると、頭を撫でられた。



「どうしたー?ん?元気ないな水樹」

「そうですか…?」

「悩み事なら俺に言えよ。先輩だからな」



高校時代先輩だったらしいけど、記憶にないので先輩とは思えない。

先輩と太田にはバスケサークルに入るよう誘われているけど、僕は首を縦に振ったことはない。

バスケは今でもプレーするのは好きなんだけど、きっと高校時代よりハマったり出来ないと思ったから。

…やっぱり、心に穴が開いている。



「水樹」

「はい」

「あんまり悩むな。ゆっくりで良い。焦るな」

「宍戸先輩…」

「無理して思い出そうとするな。無理すると壊れるぞ」

「…はい、気を付けます。ありがとうございました」



逃げるように僕は階段教室を出た。



「…水樹、きっと春沢が亡くなったこと、どこかで気にしていると思うんスよね」

「だろうな。
希和に聞いた話だと、水樹…春沢に告白したらしいから」

「春沢のことを思い出したら、きっと水樹、苦しみますよね。
あの日春沢を誘ったのは…」

「それ以上言うな。
ま、水樹のこと気にかけてやってくれ」

「了解っす!」




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