【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
 傍らでダルドとラビットを見守るガーラントは、彼の呟いた言葉を聞いて杖を持つ手をピクリと動かした。

(ふむ。なかなか興味深い言葉が出てきたものじゃな)

「ガーラント、この子がアオイ姫を"森の声を聞く者"って言ってる。どういう意味?」

 幾らダルドが獣と会話することができたところで、受け取った言葉が何を意味するかを知るには大魔導師の知識が必要なのだ。
 杖をつきながら歩み寄ったガーラントはゆっくり頷きながら言葉を紡ぐ。

「うむ。身近な御方で言えば、やはりキュリオ様じゃろう。
ダルド殿を御救いに向かわれる数日前あたりからキュリオ様はざわめく森の声を聞いておったそうじゃ。恐らく猟師(キニゴス)らが立ち入ってはならぬ地に足を踏み入れたせいじゃろう。あの日、ダルド殿の声が聞こえたからこそキュリオ様は行動に移されたのじゃ」

 ――忘れはしない。
 冷たい雨が降る暗い森の奥深くでキュリオとダルドは出会った。

 銀狐から人型聖獣へと変化したダルドは人の体に獣の耳に尾を持っており、その物珍しさと美しさから猟師に追われる羽目になったのだ。
 やがて突如目の前に現れたキュリオの背の翼を見て、彼もまた同じように変化した者だとダルドは最初勘違いをしたのは記憶に新しい。

「庭師(ガーデナー)なども植物の心が理解できると言われておるのでな。
じゃが、ラビットが言う"森の声"とは、森に生きる動植物すべてのもののことじゃろう。キュリオ様はもちろん、アオイ姫様にそのような御力があるとすれば、御二人が出会われたのは運命以外考えられますまい」

 目を細めて嬉しそうに話すガーラント。キュリオとアオイに血の繋がりはなくとも、ふたりの間には見えない運命の糸が間違いなく存在していると核心しているのである。

「うまく言えないけど……僕はふたりが羨ましい」

 わずかに視線を落としたダルドの心をガーラントは推し量ろうと試みる。

「ふむ……」

 王や姫の近くに居ることを許されているだけで特別であるはずなのだが、それ以上を求めてしまうのは何故だろう。
 だが、ダルドはこの想いにもう見当がついている。
 
(……僕は、アオイ姫との繋がりを強く求めている。たぶんキュリオ以上に――)

 ダルドはラビットをガーラントへ委ねると、アオイの匂いを追って扉を出ていく。

「愛とは美しく……儚いものじゃて」

 人型聖獣の麗しい横顔と白銀の長い髪を目で追いながら、意味深な言葉を口にするガーラントだった。

< 127 / 168 >

この作品をシェア

pagetop